「横浜の名建築をめぐる旅」に触発されて(その1)

横浜のマリンタワー2階にアートギャラリーがあり、横浜にまつわる本が展示されています。そのなかで「横浜の名建築を巡る旅」(著者:菅野裕子・恩田陸、発行:エクスナレッジ)を手に取り読んでみました。この本のなかで、工学博士であり西洋建築専攻の菅野裕子氏と建築好きを自認されている小説家恩田陸氏が、横浜の近代建築を合計32件紹介しています。著者二人の対談や恩田陸氏の4つのコラムは、建築への愛情があふれていて楽しく読むことができます。

また沢山の写真が掲載されていますが、担当された写真家は本田康司氏です。建築の素晴らしさを率直に伝える技量に感嘆します。なお、当ブログに使用した写真は私が撮影したものです。とはいえ、本田康司氏の写真に触発されていますので、似たようなものが多いかもしれません。ご容赦ください。

横浜銀行協会

私は横浜育ちなので横浜の主要建築物にはある程度の知識があるつもりでしたが、「横浜の名建築をめぐる旅」を読むと改めて訪れたくなるところが沢山見つかりました。まず気になったのは「横浜銀行協会」です。近くには旧横浜銀行本店別館や旧横浜正金銀行本店などがあるので何度も足を運んだ地域のはずですが、「横浜銀行協会」の建物は記憶にありませんでした。旧銀行本店の建築は古典主義様式のもので堂々として威厳があります。一方、本田康司氏の写真でみる「横浜銀行協会」の建物は旧銀行本店の建物とは真逆のやさしさに溢れています。古典主義様式の建物は存在感が強すぎるので正直に言えば好きではありません。同じ銀行関連の建物なのにどうしてこんなみ違いがあるのでしょうか。

早速「横浜銀行協会」を訪れてみました。桜木町から中華街・元町方面に続く本町通りと、関内駅から延びる関内大通りが交差するところにあります。案内板が立っており、その表示を引用します。

「横浜銀行協会 旧横浜銀行集会所 アール・デコやF.L.ライトの影響を受けたと思われるファサードのデザインが巧みなうえ、細部のテラコッタの装飾もまた秀逸で、まことにシックなデザインである」

ん????

アール・デコとアール・ヌーボーとの違いは?ライトは帝国ホテルの設計者でしたっけ?ファサード、テラコッタとは何でしょう?

横浜銀行の建物?

「旧横浜銀行集会所」は地銀「横浜銀行」の建物ではなく、「横浜の銀行関係者が集うところ」という意味です。大小の食堂、ビリヤード室、囲碁将棋室、理髪店などがあったそうです。敗戦後は進駐軍の接収をうけ、1952年までは将校クラブとして使用されていました。当初は3階建てでしたが、1965年に手形交換所を設置するために4階部分を加えています。建物の基本構造を壊すことなく増築されたようですが、四階部分の外観デザインは私には無粋に見えるのでちょっと残念です。

アール・デコ

アール・デコは、20世紀前半に流行した様式で直線的なデザイン、幾何学模様やシンメトリーを特徴とします。アール・ヌーボーは、植物などの有機的なモチーフに由来し曲線を多く用いる装飾技法です。「横浜銀行協会」の外観は全体的にアール・デコ装飾でシンメトリーですが、正面入り口は中央ではなく左に寄せられ、さらに六角形の窓があり動きがあります。西面の壁も左側上部のみに三角形の装飾(ペディメント)が置かれ、シンメトリーに崩しがあって楽しいデザインです。

F.L.ライト

フランク・ロイド・ライトは、米国の建築家で帝国ホテル本館の二代目を設計したことで有名です。西洋建築で主流であった赤煉瓦を使わず、スダレ煉瓦(表面にスクラッチ装飾がある)やテラコッタ(詳細は後述します)、大谷石を用いて温かみのあるデザインを帝国ホテル建築に導入しました。「横浜銀行協会」の建物がライトの影響を受けたと案内板にありますが、確かにテラコッタによる装飾が多く使われています。また、正面玄関の左手の六角形の窓もライトの影響なのではないでしょうか?ライトは帝国ホテルの設計にあたり「ピーコックチェア」と呼ばれる背もたれが六角形の椅子をデザインしています。「ピーコックチェア」を意識して、「横浜銀行協会」の設計者である大熊喜邦氏は六角形の窓を加えたと推測します。

ファサード

ファサードは、語源がフランス語の用語で建物の正面から見た外観を指します。建築用語の知見はありませんでしたので、今回初めて意味を知りました。

テラコッタ

同じく今回初めて理解した用語です。テラコッタは、粘土を素焼きにして作る外壁材で赤褐色の素朴な質感が特徴です。「横浜銀行協会」に装飾されているテラコッタは、幾何学模様の枠組みの中に壺や植物の曲線が巧みにデザインされています。建物全体はアール・デコ調でシンメトリーですが、テラコッタには曲線が沢山使われており、建物全体に優美さを与えていると思います。

帆船

正面入り口にある金属製の扉の装飾は、帆船です。横浜ですから港町のシンボルですね。こうした遊びも楽しい建築です。

今回は「横浜銀行協会」の建築をめぐる旅でした。「横浜の名建築をめぐる旅」には多くの興味深い建物が紹介されています。この本を購入することにしましたので、他の建築をめぐる旅をしたらブログをあげることにします。

「横浜銀行協会」建築の基本情報

  • 所在地                  :中区本町3-29構造・規模           :RC造4階
  • 建築年代              :昭和11年(1936)
  • 設計                     :大熊喜邦、林豪蔵
  • 施工                     :清水組

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柴田 仁

一期一会 今日の出会いを大切に

全国通訳案内士(英語)の資格に加えて「あきた白神ガイド」(秋田県認定)や「登山ガイド」(日本山岳ガイド協会認定)などの資格も持っていますので、観光地のみならず日本の自然をご紹介できるガイドを目指しています。

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